なぜ法律書籍のサブスクは法科大学院生に普及しないのか?(2024.03.05)

 一部の読者の皆様は当ブログ「崖ロー」でご存じかもしれないが、私は法科大学院自習室にある図書室の抜本的改革に乗り出し、さまざまなことを実行へ移している。
 例えば、法科大学院の学生が自習室の図書を充実させたいと思い立った際に、自習室に掲示されているQRコードを読み取り、そこにある申請フォームで①本のタイトルと②著者、③学生証番号を最低限入力すれば、その本が自習室図書の本棚に配架される仕組みを導入した。これまでの紙媒体による申請から、スマホ1つで配架して欲しい本を申請できるようになったのである。
 しかし、かかる運用を導入させた直後に私は一つ疑問が頭の中に思い浮かんだ。

・・・そういえば、最近は「リーガルテック」が流行していて、法律事務所に所属する弁護士や企業法務担当者は法律に関する電子書籍のサブスクリプションサービスを導入しつつあるようだ。それがなぜ、これから弁護士になろうとする法科大学院生に普及しないのだろうか?2026年度から司法試験がCBT化されることに伴い、かかる点が問題となる。

目次

法律書籍のサブスクとは何か

 法律書籍のサブスクリプションサービス、略して「法サブ」(と略すかどうかは知らんが、ひとまずそのサービス)とは、その名のとおり契約期間中は定額で何冊も法律書籍が読み放題となるサービスである。大規模な法律事務所や、大学などの研究機関には図書館および大型の図書室が併設されていることが多いが、この図書館をパソコンやスマホ1台で、いつでもどこでも持ち歩ける、とイメージすればわかりやすいだろう。
 すべての書籍が電子媒体であり、かつ最新刊が出れば更新されるため、定期的に出版社の近刊を見る手間がなく、最新の法解釈などが盛り込まれているはずなので、弁護過誤といた事故も起こりにくい。他方で、電子媒体であるから、それを閲覧するパソコンの電源が切られるとすべての書籍が物理的に閲覧できなくなるデメリットもある。引き続き紙媒体で執務したい弁護士の先生方にとっては苦行以外のなにものでもない点も(以下略。

2024年現在における代表的なサービス

 2024年3月現在、代表的なサービスについては以下のとおり。

1:弁護士ドットコムLIBRARY
2:Legalscape
3:LEGAL LIBRARY
4:BUSINESS LAWYERS LIBRARY

 なお、上記の順番の根拠は一切ないため、順番が上だからこのサービスが最も優秀であるということを保証するものではない点には注意されたし。

もっとも、上記のようなリーガルリサーチサービスに関する業界の動向については、私が司法試験受験を終えた後に、「リーガルリサーチサービス」を「リサーチする」形で分析してみたいと思う。それぞれのサービスについての紹介は、各リンク先のHPを見れば明らかであるから、省略させていただきたい。

判例検索サービスについては既に学生向けサービスがある

少し話を脱線させてほしい。上記のサービスは今のところ法人や法律事務所をメインのクライアントにしているようだ。私自身も、上記のサービスのうち1つについて、事務員として所属していた法律事務所の弁護士の先生からお勧めされたが、個人での契約申請をするまでには至らなかった。
 しかし、判例検索サービスについては、既に学生向けのサービスがリリースされている。こちらも代表的なものを3つ列挙したい。

1:判例秘書
2:LEX/DBインターネット
3:Westlaw Japan

 判例秘書は、判例秘書アカデミックというサービスを契約している法科大学院の学生であれば学生でも利用できる。また、法科大学院がTKCを利用していればおそらくほぼ利用できているであろうLEX/DBインターネットも、学生は利用できる場合が多い。Westlawも、法科大学院が契約していればその学生は利用することができる。いずれも司法試験合格後、法律事務所に就職すれば必ずこれら3つのサービスのどれかには出くわすものと考えられる。

 余談だが、仮に就職先の法律事務所で3つのサービス全てを契約している事務所があれば、(口の悪い言い方をすると)ちょっと固定費の使い方間違ってるんじゃない?と言いたくなる。私は既に上記3つのサービスをそれぞれ利用する機会に恵まれたが、その経験上、弁護士から判例調査を命じられたとしても、3つのサービスのうち1つでも使いこなすことさえできれば、仕事としては困ることがないと感じたからである。

 司法試験の合格に向けた勉強には、たしかに判例百選だけでは足りず、これらのサービスの力を借りるか、予備校頼みになるだろう。ここで、各法科大学院がそれぞれの教育方針に沿って契約しているサービスを学生が使うことで、学生が弁護士としていざ活躍するようになった際も利用してもらおうと、いわゆる「顧客の青田買い」に近いことが行われているのである。

学生向け法律書籍のサブスクがない理由に関する考察

 しかし、上記判例検索サービスと比較すると、法律書籍のサブスクには学生向けのものが今のところ大々的にはリリースされていない。それはなぜか。以下、予想される理由について考察したい。

  •  学生向けの参考書は紙媒体であるべきとの固定観念があるから
  •  そもそもビジネスとして成立しないから
  •  司法修習を出た直後に弁護士個人で契約することが想定されていないから

1:学生向けの参考書は紙媒体であるべきとの固定観念があるから
 義務教育や高校などに教育用デバイスが提供されるようになったのはここ数年の話である。それまでは、少なくとも私達の世代までは①スマホ等の電子媒体は学校へ持込みが禁止されているか電源を切るようになっている、②情報に関する授業は専用のパソコンが多数設置された教室で行われるという経験を小中高校で経験されたのではないだろうか。
 そういう背景もあり、原則として勉強はすべて紙媒体であり、当然ながらテストも紙媒体であるということを全員がその身体に理解させているものと思われる。情報など、インターネットを使用するという必要最低限の状況に追い込まれてはじめて、専用の、それもかなりバージョンの古いパソコンを使用することが許されたはずである(少なくとも私の世代は、学校のPCはWindows98(?)かVistaを使用していたものと記憶している)。
 これには、やはり勉強はコンピューターでは効率が悪い、紙媒体でなければ覚えられない、というよくわからない理解が普及しているからではないかと思われる。

 しかし、テクノロジーが進歩した現代においては、紙媒体で処理する仕事はかなり減り、法曹の世界でも徐々に書類の電子化が進められてきている。裁判書類もオンラインでの提出に移行してきているようだ。
民事裁判書類電子提出システム(mints)について(裁判所)

 そうすると、実務の世界で積極的に電子媒体による執務がオーソドックスとなりつつある中で、かかる固定観念をひきずり、いつまでも学生が紙媒体でしか理解できない状況にあるのは、実務の方にとっても、学生にとっても、望ましくないだろう。
 したがって、仮に紙媒体であるべきとの固定観念が未だに広がっているのであれば、即刻考えを改めるべきである。

2:そもそもビジネスとして成立しないから
 法律書籍のサブスクは、慈善事業ではなくれっきとした営利を目的とする事業である。したがって、かかるサブスクをしっかり学生が利用し、適正な対価を支払ってくれなければ、当然ビジネスとしては成立しない。やればやるほど赤字、、、というビジネスモデルは破綻しているからである。法人契約であれば、だいたい1ヶ月1人あたり5000円台で収まるケースが多いが、仮に学生に対して同じ契約内容を提示した場合、どの程度の学生がかかる契約を支払う経済的余力を持っているのだろうか。
 電子媒体のほうが使いやすいと感じている私はともかく、果たしてこれまで紙媒体に慣れてきた学生達に法律書籍のサブスクが刺さるかも問題となる。使う学生が少なければそれだけ余計なランニングコストがかさむだけであり、こちらもビジネスモデルが破綻するからである。

 では、かかるサービスの顧客を法科大学院として契約するのはどうだろうか。こちらも、昨今の法科大学院制度や学生の定員に対する在籍者数等を見る限り、今このタイミングでサービスを契約できる体力のある法科大学院は、果たしてどの程度残っているのだろうか、はなはだ疑問である。そうすると、仮に法科大学院に対して法律書籍のサブスクの営業をかけたとしても、法科大学院側としてはこれ以上の支出を捻出できる体力が残されていない場合が多いから、契約が不成立に終わる可能性が高い。

 したがって、上記懸念点があるから、そもそもビジネスとして成立しないように思われる。

 しかし、これを言えば、判例検索サービスも同じである。法科大学院には法科大学院の図書室があるが、判例検索サービスを使わずとも、これらに搭載されている情報は図書室に行けば紙媒体で閲覧することができる。敢えていうならば、支出の無駄遣いである。それにもかかわらず、判例検索サービスを各法科大学院が導入している理由について、上記のようにビジネスとして成立しないからという理由で片付けるのは論理的に無理がある。かかるサービスも1ユーザーあたりの契約金額は決して無視できるほど安くはないからである。

 よって、ビジネスとして成立しないというならば、判例検索サービスも同様であると思われ、理由としては不十分であるというべきである。

3: 司法修習を出た直後に弁護士個人で契約することが想定されていないから
 私としては、おそらくこれが一番の理由かと考えている。まず、私のように即独を公言して目指す法科大学院生は、指を数えるほどしかいないだろう。法曹界の就職氷河期の時代ならいざ知らず、今は人手不足による売り手市場(本当か?)により、就職しようと思えば就職できる時代である。即独を実行した弁護士の先生も、昨今では極めて少ないと聞いている。また、ほとんどの弁護士の先生が口を揃えて話すのは、「一旦教育の充実した法律事務所で下積みをしてから独立する」というものだった。ボス弁の指揮下で働く弁護士をイソ弁というらしいが、だったらはじめから独立しろよ、、、というのが、これを聞いた私の感想である。

 ちょっと余談だが、私は「イソ弁」という言葉が大嫌いである。イソ弁とは、文字通り「(誰かの法律事務所に)「居候」している弁護士」のことを指すが、居候という言葉があまりにも社会的評価の低い言葉であるから、多くの弁護士は「独立したい!」と言い出すのであろう。

 イソ弁という言葉は、即刻「サラ弁(サラリーマン弁護士)」に変えるべきである!!!いくらそれぞれが個人事業主という形式的な体裁を保っているとはいえ、その実態は一般的な企業と客観的にほとんど変わらないではないか!

 以上、余談でした。

さて、話を戻すと、私のように独立心の強すぎる法科大学院生はほぼ皆無であるから、必然的に就職先の法律事務所が既に契約している法律書籍のサブスクを利用することになる。そうすると、わざわざ弁護士個人がいきなり新規契約を申込んでくるといったことは、とても想像がつきにくいだろう。仮に学生版プランとして契約が成立しても、就職先で、しかも他のサービスに再契約させられては、学生を青田買いした意味がなくなってしまう。

 ちなみに、この理由は判例検索サービスにはあてはまらない。判例の検索方法は、少なくとも上記に列挙した3サービスについていずれも似通っており、互換性があるからである。また、3サービスとも全部契約していない法律事務所もおおよそ考えられないから、司法試験合格前の法科大学院生がここであらかじめ使い方を学び、使いこなせるようにすることは非常に有意義なものとなる。(正直、判例の検索方法にちょっとクセがあって使いにくいなぁと感じていたけど、いずれのサービスもほぼ同じ検索方法だったから「あ、そういうもんなのか」と割り切ってしまった。)

 したがって、法律書籍のサブスクを提供する側の立場からは、そのようなリスクをとるよりも、就職先の法律事務所で慣れてください、という意味合いもあり、法科大学院生向けのサービスを提供する必要性が見いだせないのだろう。よって、私のような「弁護士になった直後に契約することを予定する」ビジョンを持つ学生がほぼいない以上、そのような顧客を想定することがないのは、容易に想像がつく。

どうすれば学生向け法律書籍のサブスクをリリースできるか(まとめ)

私個人としては、一刻も早くかかるサービスをどなたかリリースしてほしいと願っている。私自身が、将来に備えて電子書籍メインで勉強しているからだ。誰も一歩踏み出さないのであれば、ぜひとも私がファーストペンギンとして一歩踏み出したいのだが、悲しいかな、電子書籍事業のノウハウは0である。どうしたものか。。。

どうすれば学生向け法律書籍のサブスクをリリースできるか。それは今後の課題となるだろう。

本記事をシェアしたい方はこちら。

著者情報

大学法学部卒業後、電鉄系、法律事務所での勤務を経て、法科大学院へ進学する。果たして筆者は無事に司法試験と司法修習を突破し、「弁護士・外国法事務共同弁護士法人」を設立のうえ、日本を代表する大手事務所へ成長させられるのか!?
とある司法試験受験生のブログです。

目次