今、民法の問題のうち、未成年者が相手方との間で、親権者に無断で、バイクの売買契約を締結したという事例において、親権者は、当該売買契約を取り消すことができるか、また、未成年者が売買契約締結時に詐術を用いていた場合はどうか、という問題に取組んでいる。これは、本来ならば大学学部の1年生が、民法総則の授業で取り扱われたら誰でも答えが出せる、、、はずの、論点である。これが短答で出題されれば、当然、正答を導き出せる自信がある。司法試験受験生(特に、法科大学院生)は、「このような論点は当たり前にできるだろ」という共通認識があるはずだから、誰もこのような簡単過ぎるようにみえる論点には見向きもしないだろう。私も、177条の第三者レベルで見向きもしていなかった。
しかし、先日の指導を通して、私は、上記事例の答案が書けなくなってしまったのだ。ついでにいうと、177条の論点も、簡単だとたかをくくっていたから5分~10分程度で書けると踏んでいたところ、指導を通して書き直した答案は約15時間ほどかかった(なんなら徹夜した)。あの177条の第三者の論点に15時間もかかるだと!?と、絶望した。
※なお、177条の第三者とは、「当事者及び包括承継人以外の者であって、不動産物権変動につき登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者」という、行訴法3条2項の処分性なみに暗記できるフレーズがあるのだが、これでは「規範を定立」したことになっていなかった、ということを追記しておく。ちょっと気付くのが1年遅かったかも。
そう、私は当初、上記問題に対して、民法5条1項と2項を引っ張り出して、その条文をそのままあてはめて答えを導き出していた。未成年者が詐術を用いていない場合は、親権者が同意していない以上、特に問題なく売買契約を取り消すことができるが、逆に詐術を用いていた場合は21条の条文を引っ張り出して当該売買契約を取り消すことができない、、、という答案になるはずだった。
しかし、先日の指導を通して見返せば、上記答案は、条文の文言解釈をしていなければ、要件要素についての解釈もしていない、すなわち、規範という規範がないことになる。正解を書いたつもりのはずなのに、司法試験の答案では点数がほぼ入らない、という事態に陥るのである。まるでこれまでの司法試験対策の勉強を根底から全てひっくり返すかのような発見である。
総則・物権において、私は、基本書として佐久間先生の「民法の基礎1・2」と安永先生の「講義・物権・担保物権法」、潮見先生の「民法(全)」の3冊を愛用している。しかし、先日の指導をもとに、司法試験・およびその先の実務家に求められる規範定立をするためには、上記3冊では全く手も足も出ず、私は、このような前代未聞の事態に対して、大慌てで法科大学院図書館にある全ての文献を読みあさることになった。
岡口先生の要件事実マニュアルに具体的なヒントがあるわけではなく、あの分厚い我妻コンメンタールや注釈書にすらも明確なヒントは一切書かれていなかった。私は、流石に上記文献に載っていないことはないだろう、と、何度も読み返したが、それでも司法試験水準を充足するような規範定立はとても書けたものではなかった。
やっとのことでたどり着いたのが、我妻先生の民法講義であった。そう、民法の原理・原則が全てここにある、と言われている、なぜか約20年前より前の大御所の先生方が改正後の今でも愛用している、60年前の本だ。それでも、今回の問題でまともに規範定立するにはちょっと頼りない、というレベルなのだ。ここまできたら、流石に「何かがおかしい」と感じるはずなのだが、法科大学院生の身で教授の考えがひょっとしたら変なのではないか?と考えること自体がおこがましいので、迷わず突っ切ることにする。多分、考えて迷っていたら、上記指導は司法試験受験までに間に合わない。
当然、司法試験1位や3位の答案が超上位答案として市販で出回っているものについては、あてにならない。課題で求められている水準の次元が違うからだ。司法試験委員会は、受験生に対して、一体何を求めているんだ!と、思わず文句をいいたくなるレベルである。
以下、余談だが、ローの中には、ここまで求めるのはもはや「研究者の領域」であって、司法試験で求められる水準ではない、と割り切る教授も一定数いる。学生は、私を含めて、司法試験に合格したい。教授陣は、法科大学院の合格者数と合格率を上昇させたい。そのような共通認識があるはずなのに、ここまで考え方が違うのだなぁ、としみじみ感じる。
また、今の私から見える教授陣の方針は、大きく分けて2つあると思っている。すなわち、(あくまで私の主観だが)教授の多くは予備校が出している上位答案や趣旨規範を自習として用いることに推奨・歓迎しているが、実務家教員の多くは「予備校本は(ところどころ間違った記載があるので)信用ならない」として、反対の立場をとっているように思われる。もちろん、実務家教員の中には「予備校本」を推奨する先生方も少なからずいるのだが、私達学生にとって最悪なのは、方針が互いに正反対の教員同士が同一科目を同一教室で担当した場合である(今の時期はひたすら答案を書け!という先生と、答案を書くよりも基礎的な知識を徹底的に固めろ!という先生が同一教室で同一科目の講義をしているといえばわかりやすいか)。いずれにせよ、全体をみれば、教授陣の方針は、このように二分されているように思える。流石に、先生によって答案の態度を変えるほどあほらしいことはないので、私はいい加減どちらの立場につくか、そろそろ決めなければならない。
以上、ちょっと答案が書けなくなってしまい、精神をすり減らした一日だった。なお、最初に述べた問題は、佐久間先生ほか3名の先生が編著となっている「民法演習サブノート」の第4問の小問(1)と小問(4)である(ちょっと問題文を簡潔にして記載している)。解答を初めた正午から今に至るまで約6時間が経過しているが、まだ解答が出来上がっていない。