表題のとおり、本日、令和5年の司法試験短答のすべての問題の分析が完了した。すなわち、今年度に出題された憲法・民法・刑法の短答式問題につき、すべての選択肢に対して解説・参照文献・条文を引っ張り出せるまで徹底的に分析してきたが、本日それがすべて終わったのである。以下、科目ごとに分析の結果と参考にした文献を述べたい。
1.参考文献からの引用が極めて難しかった憲法
今回の分析で最も苦戦を強いられたのは、私が最も得意としていた憲法であった。
私が憲法を得意としていることについて、読者のなかには、「憲法を得意というやつは信用できない」「憲法が得意と言っていられるのも(勉強が進んでいない)今のうちだ」と仰る方がいるかもしれない。というか、実際にそう私に言ってくる方は複数いた。たしかに、司法試験合格者および弁護士の先生方はほとんど口を揃えて「憲法は最後の最後までわからなかった」と仰る。それほど憲法が得意な受験生や実務家は少ないのだろう。しかし、学部時代から院試も含めて現在まで、私にとって憲法が最も得意分野であることは、これまで獲得した成績がすべて証明してくれる。これは変えようのない事実だ。
さて、自慢話はこの辺にとどめておくとして、、、
見出しのとおり、憲法はこれまで学習してきた知識と経験を総動員して一旦解答してみた。しかし、正答率こそ7割を超えていたものの、同じ設問内で異なる選択肢を選んだことにより、点数でいえば5割前後しか取ることができなかった。憲法の短答は他の科目とは異なり「全ての選択肢に正解して2~3点」獲得できる設問がほとんどである。したがって、設問内にある3つの小問につき、すべて正解しなければ点数が貰えない仕組み(または部分点として1点しか獲得できない仕組み)となっていることから、高い正答率ながら低い点数という事態が発生したのである。
上記の経験を踏まえて、2周目は私が持ちうる全ての文献を総動員して解答してみた。どうしてもわからない部分は正答と照らし合わせて、「なぜこの問題が正しい(誤り)なのか」を解説できるまで追求してみた。
しかし、私が持ちうるすべての文献をもってしても、解説が完成しなかった。私がこれまで持っていた知識だけが頼りとなった設問も少なくない。
そう、すなわち判例百選や読本等をもってしても、そこに記載されていなかった詳細な論点ばかり出題されたのである。これは後述する民法や刑法との大きな違いである。判例百選にすら記載されていない論点を出すのはいかがなものだろうか、、、笑
なるほど某塾の論証集や論ナビ(?)とやらを用いたとしても受験生が「憲法が苦手」という理由がつかめてきたかもしれない。(なぜなら、そもそも市販の基本書や予備校が注目していない論点ばかり出てくるから!)
私のように憲法の細かい論点まで追求しないと気が済まない変○でなければ、解けない問題が少なからずあった。
・・・これ、本当に実務家登用試験だよな・・・?憲法専攻の法学研究科の博士課程の院試ではないよな?
憲法の問題を作成した者は、果たして受験生にいかなる態度で試験に臨ませようとしたのだろうか?
いずれにせよ、まだまだ勉強不足であることを実感させられた。
・・・ひょっとすると、私が見てきた文献そのものが、司法試験の合格に向けた基本書としてベクトルが間違っていたのではないだろうか?下記に科目ごとに参考文献を掲載したので、読者の皆様もぜひ見てほしい。
参考文献
・宍戸常寿ほか『憲法学読本』(第3版)有斐閣、2018年
・憲法判例百選(第7版)有斐閣、2019年
・渡辺康行ほか『憲法Ⅰ 基本権〔第2版〕』日本評論社、2023年
・木下昌彦ほか『精読憲法判例-統治編』弘文堂、2021年
2.分析に最も時間がかかった民法
民法は、憲法とは異なり参照すべき文献がわかりやすかった点が挙げられる。そもそも民法で出題される選択肢の一部は条文の文言がそのまま出題される場合が少なくなかったため、参考文献や条文を比較的発見しやすかった。したがって、設問の多さとバラエティの多さのせいで1週間以上分析に時間がかかり、気の遠くなるような作業となりかけたことを除けば、もっとも楽しい分析となった。
「司法試験は、冒険をしてはいけない。多くの文献をあさるより、1つの文献を潰したほうがいい。」これは受験生・合格者の間ではよく言われていたし、実際にこのようなアドバイスをよくいただいた。したがって、本来であれば故潮見先生が出版なされた『民法(全)』に知識を集約させて使い潰し、試験に臨む、、、はずだった。
しかし、今年の短答では上述した文献でさえもカバーできない分野が債権と家族法を中心に出現した。いや、もしくは私が見落としているだけなのかもしれない・・・。それに代わり、民法(全)でカバーできなかった分野はすべて他の基本書がそれぞれの役割をわきまえてカバーしていた。例えば物権の分野であれば安永先生の基本書が、家族法であれば前田先生ほか2名の先生の共著となっているリーガルクエストが、債権であれば今年出版された長島大野常松法律事務所(以下、NOT)のアドバンス債権法が、不法行為・不当利得等は潮見先生が著者の、いわゆる「潮見イエロー」と呼ばれている書籍で、他に寄り道をすることなく分析できた。
最も驚いたのは、上述したNOTアドバンス債権法のカバー率だ。総則のうち、婚姻と胎児等を除く分野と不当利得・不法行為を除く債権すべて、ならびに物権の一部はこの書籍で完結し、なんなら書籍とほぼ同じ文言で短答に出題されたものが多かった。ひいては全体の約3分の2は上記書籍を潰すだけで完結した。NOTの書籍がカバーできていない分野(物権・家族法)は、上述した安永先生と前田先生の基本書でそれぞれ100%不自由なく解答できた。
以上をふまえると、債権・契約法を実務家が使用している書籍に切り替えるという「常識を知り、その常識を打ち破る」挑戦的な取り組みは、少なくとも今年度の試験においては成功したといえたかもしれない。潮見先生の民法(全)は、民法の各分野を学習するにあたっての「基本分野のおさらい」としての立ち位置として使い潰すことになりそうだ。
追伸:あれ、、、判例百選は、、、?
参考文献
・【全体・債権】長島・大野・常松法律事務所『アドバンス債権法』商事法務、2023年
・【物権・担物】安永正昭『講義 物権・担保物権法〔第4版〕』有斐閣、2021年
・【親族・相続】前田陽一ほか『リーガルクエスト民法Ⅵ親族相続〔第6版〕』有斐閣、2022年
・【不法行為】潮見佳男『講義 債権各論Ⅱ 不法行為法 〔第4版〕』新世社、2021年
・【不当利得】潮見佳男『講義 債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得』新世社、2017年
・【総則(失踪・胎児等)】潮見佳男『民法(全)〔第3版〕』有斐閣、2022年
3.以外と分析が早く終わった刑法
さて、憲法と民法は上述のとおりかなり分析に苦戦した。他方で、刑法はどうか。これは、1週間ほどかかった憲法と2週間以上かかった民法をよそに、1日で分析が終了した。しかも6時間程度で。
刑法は憲法や民法とは異なり、「この文献さえ読んでいれば少なくとも短答は高得点で突破できる」という文献があった。私の世代では総論も各論も「基本刑法」という書籍が司法試験受験生の界隈では定番となっている。むしろさきほどの書籍に記載されている論点は誰でも解けることが前提となっているから、決して落としてはいけない。しかし、単なる偶然だろうか、私の代で指定された刑法の教科書は「基本刑法」ではなく、西田先生の「刑法」だった。いわゆる「緑本」である。
緑本は、初学者にとっては難解である「気難しい本」として有名であったが、他方で何度も読み返すと非常に端的でわかりやすく感じるという評判の本であった。それを授業で教科書として指定された以上、この教科書で司法試験に臨むしかない。(基本刑法を同時に使うと混乱するため、もう緑本で勉強すると決めている)
私が持っているのはその緑本がメインなのだが、なんと今年度の短答は緑本だけで分析が終わってしまったのだ。これには驚いた。上述した2法では、やれ判例百選だの分野ごとに基本書を変えるだの、良くも悪くも大変だったが、刑法に限っていえばこの緑本だけで完結してしまったから、非常に楽であった。
言い換えると、この本をしっかり潰せば、2年後の司法試験や来年の予備試験合格までに間に合うという証明であると思われる。
今後の勉強にあたっては緑本をしっかりと知識を叩きこみ、自分の言葉で論点を説明・記述できるよう、理解を深めていきたい。
追伸:ここ最近の刑法はやたら法改正・施行が多く、そのたびに基本書も法改正に合わせた罪名や条文に書き換えて改訂版を出版されるため、少なくとも私にとっては悲鳴を上げたくなるほどの痛い出費を強いられることとなりそうだ。西田先生の書籍も下記のとおり出版されて5~6年は経つため、来年あたりには改訂・一新されるのではないかと私は考えている。1冊あたりの書籍代は3000~4000円はするのだから、決して安くはないんだぞ、、、
参考文献
・西田典之(橋爪隆補訂)『刑法総論〔第3版〕』弘文堂、2019年
・西田典之(橋爪隆補訂)『刑法各論〔第7版〕』弘文堂、2018年
4.結論
以上のように、今年度の短答試験を自ら分析することで、各科目で使用する文献や分析する量など、以降の勉強にどう役立てるべきかを定める非常に良い経験となった。あとは、短答の分析をしただけでは終わらせず、次回の模試および論述対策に結び付けていきたい。